洞中春色人難見
洞中の春色 人見難し
『虚堂録』巻九
僧云、今日和尚説法、忽有人獻花、未審如何顯示。師云、洞中春色人難見。
僧云く、「今日和尚説法、忽ち人有って花を献ぜば、未審し如何が顕示せん」。師云く、「洞中の春色、人見難し」。
- 洞中春色 … 洞穴の向こう側に広がっている桃源郷。転じて悟りの妙境。
- 人難見 … 簡単には見ることができない。
- 柴山全慶編『禅林句集』には、「別天地の春色、即ち悟りの妙境界は容易に知りてがない」とある。【洞中春色人難見】
- 芳賀幸四郎『新版一行物』には、「……この『洞中の春色』は、陰と陽・善と悪・美と醜・是と非などの一切の相対を高く超越した悟りの世界の景観であり、相対を絶した悟りの眼をもってでなければ、それが見えないのは当然のことである。相対的な肉眼で見ようと思っても、次元がちがうのでそれが見えるはずはない。(中略)同じ自然と人生を眺めこれを処しながら、未悟の眼で見れば地獄・餓鬼・畜生・修羅の世界、厭うべき穢土と観ぜられ、開悟の眼でこれを眺めれば寂光の浄土と映ずる。だとしたら、禅の修行をして悟りを開き、その眼で自然を眺め人生に処し、その真趣を味わったらよかりそうなのに、そうする人はまことに少ない、お気の毒なことだという嘆きをも、この語は含んでいるのである」とある。【洞中春色人難見】
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